神戸地方裁判所 平成元年(ワ)11号 判決 1993年1月27日
原告
林義雄
被告
中川浩次
主文
一 被告は、原告に対し、金三〇五万七八〇三円及び内金二七七万七八〇三円に対する昭和六三年二月一三日から、内金二八万円に対する平成元年一月一九日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その四を原告の、その一を被告の、各負担とする。
四 この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金一六六五万八五四六円及び内金一三六五万八五四六円に対する昭和六三年二月一三日から、内金三〇〇万円に対する平成元年一月一九日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、普通乗用自動車と衝突した普通乗用自動車の運転者が、同衝突により負傷したとして、相手普通乗用自動車の所有者兼運転者に対して、自賠法三条に基づき、損害賠償の請求をした事件である。
一 争いのない事実
1 別紙事故目録記載の交通事故(以下、本件事故という。)の発生
2 被告の本件責任原因(被告が本件事故当時被告車の所有者=自賠法三条所定)の存在。
3 原告が本訴において主張する治療経過中、次の各治療は、本件事故と相当因果関係に立つ治療である。
(一) 三重県立総合塩浜病院 診断傷病名 頸椎及び腰椎捻挫
昭和六三年二月一三日通院(実治療日数一日)
(二) 四日市中央病院 診断傷病名 頸部捻挫・背腰部捻挫・右膝左足打撲
同年二月一九日から同年三月一五日まで入院(二六日間)
4 原告が本訴で主張する損害中、次の各損害は、本件事故と相当因果関係に立つ損害(以下、本件損害という。)としての損害である。
(一) 三重県立総合塩浜病院分治療費金一万四〇七〇円
(二) 四日市中央病院における入院雑費算定の基礎金額は、その入院期間二六日中一日当たり金一〇〇〇円である。
5 損害の填補
原告は、本件事故後、自賠責保険金金一七〇万円の支払いを受けた。
二 争点
1 原告が本訴で主張する、次の受傷内容及び治療経過と本件事故との間の相当因果関係の存否
(一) 原告の主張
原告の本件受傷内容及び治療経過(ただし、前記当事者間に争いのない治療経過に引き続く。)は、次のとおりである。
(1) うすい整形外科 診断傷病名 外傷性頸部症候群・筋々膜性腰痛症
昭和六三年三月一七日から同年六月二四日まで一〇〇日間通院
(2) 神吉外科病院 診断傷病名 外傷性頸部症候群・両肩鎖関部損傷椎間板障害
昭和六三年六月二〇日から同年一二月三一日まで入院一八九日、通院五日
(二) 被告の主張
原告の右主張事実は全て不知。
仮に、原告がその主張する各病院においてその主張にかかる診断傷病名でその主張期間治療を受けたとしても、右各治療には、本件事故との間に因果関係がない。
その理由は、次のとおりである。
うすい整形外科における診断傷病名による症状は、いずれも本件事故との間に因果関係がない。即ち、同診断傷病名中頸椎関係の症状は、老化現象によるものであり、同筋々膜腰痛症は、不良姿勢等による慢性疲労が原因である。したがつて、同診断傷病名による各症状は、いずれも本件事故に起因するものでない。
また、神吉外科病院における診断傷病名による各症状も、全て本件事故との間に因果関係がない。即ち、原告には、頸椎の骨棘化・椎間板の狭小・腰椎の狭窄が存在し、これらは、いずれも老化現象で、その頸椎・腰椎の椎間板の変形から神経根症状・バレリユー症状への出現となつているものである。したがつて、同診断傷病名による各症状は、いずれも本件事故に起因するものでない。
右主張から明らかなとおり、原告主張の右受傷内容及びその治療経過は、いずれも本件事故と因果関係がないものである。
2 原告の本件損害の具体的内容
(ただし、前記当事者間に争いのない分を除く。)
3 原告における既往症の存否
(一) 被告の主張
原告には、本件事故当時、既往症として頸椎の動揺性があり、これが、同人の本件損害の発生に対して一〇パーセント程度の影響を与えた。
よつて、右既往症の右影響を考慮し、同人の本件損害総額から一〇パーセント相当額を減額すべきである。
(二) 原告の主張
被告の主張事実及び主張は全て争う。
4 過失相殺の成否
(一) 被告の主張
本件事故現場である本件交差点では、同事故当時、原告車の対面信号機の表示が黄色点滅、被告車の対面信号機の表示が赤色点滅であつた。
本件事故は、原告・被告の双方が右各対面信号機の表示を遵守しなかつたために発生した。
よつて原告の右過失は、同人の本件損害額の算定に当たり斟酌すべきである。
しかして、右斟酌する原告の過失割合は、四〇パーセントが相当である。
(二) 原告の主張
被告の主張事実中、本件交差点の本件事故当時における各関係対面信号機の表示は認めるが、その余の主張事実及び主張は全て争う。
本件事故の発生は、被告の一方的過失により発生したものである。
5 損害の填補
(一) 被告の主張
原告は、本件事故後、同人の四日市中央病院関係治療費合計金一一万五一四〇円の支払いを受けている。
(二) 原告の主張
被告の主張事実は認める。
しかし、原告は、右治療費を本訴請求から除外している。
第三争点に対する判断
一 原告が本訴で主張する、次の受傷内容及び治療経過と本件事故との間の相当因果関係の存否(ただし、前記当事者間に争いのない治療経過に引き続く。)
1 うすい整形外科
(一) 原告は、右病院において本件受傷につき外傷性頸部症候群・筋々膜性腰痛症と診断され、昭和六三年三月一七日から同年六月二四日まで一〇〇日間通院治療を受けた旨主張するところ、証拠(甲二の2、三の3、原告本人。)によれば、同人の同主張事実は、同治療と本件事故との間の相当因果関係の存在をも含めて全てこれを肯認し得る(ただし、同病院における実治療日数は、六一日である。)かの如くである。
(二) しかしながら、証拠(乙一、三の2、本件鑑定結果。)によれば、原告は、右病院において治療を受ける前、前記四日市中央病院へ入院して治療を受けたものであるが、同人は、同入院当日の昭和六三年二月一九日午後一時三〇分頃独歩で入院し、その後外出して同日午後六時三〇分頃帰院したこと、同人は、同入院期間中しばしば病室を不在にしていたこと、同人は、同年三月一四日午後九時頃外出し、同九時三〇分頃酒臭い息をして帰院したが、同日午後一一時三〇分頃同病院ロビーにおいて小原某と口論し、看護婦に注意され病室に連れ戻されたこと、原告は、翌日の同年三月一五日、自ら退院すると称して、同病院を出て以後同病院の治療を中止したこと、原告は、同年三月一七日、うすい整形外科において診察を受けたが、右病院担当医が原告についてなした診断傷病名の内筋々膜性腰痛症は、医学上通常の腰痛症に使用される診断傷病名であり、交通事故の受傷による症状に対しては使用されない診断傷病名であること、同病院における治療の殆どは、原告の自覚症状に基づいて行われたこと。同人の同病院への通院実治療日数六一日は過剰であり、同通院は二日に一度の割合で足りたことが認められ、右認定各事実に照らすと、原告の前記主張事実中右病院における右治療の全てにつき本件事故との間の相当因果関係の存在を肯認することができない。
むしろ、右認定各事実に後記認定にかかる原告の本件受傷の症状固定時期を加えると、原告のうすい整形外科における前記治療中本件事故と相当因果関係に立つ治療は、診断傷病名外傷性頸部症候群に対する治療で、しかも、その治療期間は、実治療日数三〇日をもって足りたと認めるのが相当である。
2 神吉外科病院
(一) 原告は、右病院において本件受傷につき外傷性頸部症候群・両肩鎖関部損傷・椎間板障害と診断され、昭和六三年六月二〇日から同年一二月三一日までの間に通院五日、入院一八九日の治療を受けた旨主張するところ、証拠(甲二の3、5、三の4、証人神吉英雄、原告本人。)によれば、同人の同主張事実は、同治療と本件事故との間の相当因果関係の存在を含め全てこれを肯認し得るかの如くである。
(二)(1) しかしながら、証拠(乙二、本件鑑定結果、弁論の全趣旨。)によれば、右病院の原告に対する診断傷病名の内両肩鎖関部損傷については、同診断傷病名にもかかわらず、同病院の担当医は原告の当該患部に対するX線検査を行わず同診断をしていること、同外傷は、肩甲骨の肩峰(肩部の外側に当たる。)への直達外力によるものであり、本件事故のような態様では通常発症し難いこと(現に、同診断傷病名の診断は、本件事故後、同病院において初めてなされたものであり、同病院以外の前記各病院においては、全くなされていない。)、同椎間板障害は、前記筋々膜性腰痛症と同じく医学上通常の腰痛症における診断名であり、交通事故による症状には使用されていないこと、神吉外科病院の原告に対する治療中本件事故と関連するのは外傷性頸部症候群であるところ、同病院の同人に対する治療は、一貫して同人の主訴である頭痛・頸痛・両肩背痛・腰痛等に対するものであること、したがって、前記当事者間に争いのない分及び前記認定にかかる分の全治療経過及び医学上の一般的常識を総合して見る時、神吉外科病院の原告に対する治療には、入・通院を通じ、その必要性がないことが認められ、右認定各事実に後記認定にかかる原告の本件受傷の症状固定時期を加えると、同人の同病院における全治療と本件事故との間の相当因果関係の存在については、未だ証明されたということができない。
よって、原告の神吉外科病院における全治療は、未だ同人の本件事故による受傷の治療と認めるに至らない。
(2) なお、原告は、同人の本件受傷は未だ症状固定していない旨主張するが、同人の同主張事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
かえって、証拠(本件鑑定結果、弁論の全趣旨。)によれば、原告の本件受傷は、遅くとも、原告のうすい整形外科における最終治療日の翌日である昭和六三年六月二五日には症状固定したことが認められる。
二 原告の本件損害の具体的内容
1 治療費 (請求 金八六万八二二六円)
(ただし、いずれも自己負担分) 金四万九七四五円
(一) 三重県立総合塩浜病院分 金一万四〇七〇円
右病院の治療費については、当事者間に争いがない。
(二) うすい整形外科分 金三万五六七五円
右病院への通院実治療日数中本件事故と相当因果関係に立つ分が三〇日相当と認められることは、前記認定のとおりである。
しかして、証拠(甲三の3)によれば、原告の右認定期間内における治療費は金三万五六七五円であることが認められる。
(三) 右当事者間に争いのない事実及び右認定事実に基づくと、本件損害としての治療費は、合計金四万九七四五円となる。
なお、原告の神吉外科病院における全治療が本件事故と相当因果関係に立つものとは認め得ないことは前記認定説示のとおりであるから、同人が本訴で請求する同病院の治療費全額も、未だ本件損害と認め得ない。
また、原告の四日市中央病院における治療費は、本訴請求外である。
2 入院雑費 (請求 金二一万五〇〇〇円) 金二万六〇〇〇円
(一) 原告の四日市中央病院への入院二六日間、本件入院雑費の算定基礎金額が同入院期間中一日当たり金一〇〇〇円であることは、当事者間に争いがなく、原告の神吉外科病院における入院が本件事故と相当因果関係に立つとは認め得ないことは、前記認定説示のとおりである。
(二) 右当事者間に争いのない事実及び右認定説示に基づくと、本件損害としての本件入院雑費は、合計金二万六〇〇〇円となる。
3 付添費 (請求 金一〇七万五〇〇〇円)
(一) 原告の本件事故と相当因果関係に立つ治療が、三重県立総合塩浜病院における通院一日、四日市中央病院における入院二六日、うすい整形外科における実治療日数三〇日の通院であることは、前記認定のとおりである。
(二) しかして、原告の本訴請求主張の付添費については、その必要性を認めるに足りる証拠がない。
かえつて、証拠(本件鑑定結果、弁論の全趣旨。)によれば、原告の右治療各病院における症状及びこれに対する各治療状況から見て、同人に対する付添いの必要性はなかつたことが認められる。
右認定事実に照らしても、原告の、本件損害である付添費の存在を認めることはできない。
4 通院交通費 (請求 金九万一五八〇円)
(一) 原告の本件事故と相当因果関係に立つ通院日数は、前記認定のとおりである。
(二) しかしながら、原告が本訴で請求主張する通院交通費については、これに関する具体的主張及び同主張にそう的確な証拠がない。
よつて、原告の、本件損害である通院交通費の存在も認めることができない。
5 休業損害 (請求 金一〇三二万八七四〇円) 金四四六万六六二二円
(一) 原告の本件事故と相当因果関係に立つ治療が、昭和六三年二月一三日から同年六月二五日までの一三四日であることは、前記認定のとおりである。
(二) 証拠(甲九の1ないし3、一〇の1ないし3、一一、原告本人、本件鑑定結果、弁論の全趣旨。)によれば、次の各事実が認められる。
(1) 原告は、二六歳頃(昭和一五年一一月二三日生。本件事故当時四七歳。)からパチンコ遊戯業務(パチンコ台の釘の調整・従業員の管理教育・金銭の管理等店舗全体を管理する業務)に携わるようになり、三一歳当時には、神戸市内の店舗においてマネージャーとして同業務を任されるようになつた。
同人は、以後、主として神戸市内のパチンコ遊戯店で右業務に就き、昭和六一年一二月二日、日本遊戯機技術者協会(所在地大阪市浪速区元町一丁目。会員は、遊戯業界の支配人・店長・釘調整師もしくはそれに準ずる主任・または将来これらの役職になり得る素質のある者。)の正会員となった。
(2) 同人は、昭和六一年一二月一九日、伊勢市曽弥二丁目所在グランド産業有限会社(以下、グランド産業という。)に、パチンコ台釘の調整と同遊戯店全体の管理を業務内容として入社し、同会社経営のパチンコ遊戯店「グランド」において同業務に就いた。
なお、同人の右入社は、前記日本遊戯機技術者協会会長の、右会社が適任者不在で困つている、助けてくれないかとの依頼によるものであつた。
原告は、その後、グランド産業の代表者に依頼され、代表者が同じである鳥羽市鳥羽一丁目所在ニユーグランド産業株式会社(以下、ニユーグランド産業という。)経営のパチンコ遊戯店「ワールド」及び「ニユーグランド」の二店舗においても、右「グランド」と同じ業務内容に就いた。
しかして、原告の昭和六二年度における給料・賞与の合計額は、金一二三九万四四九七円(グランド産業分金一〇八九万八八三〇円、ニユーグランド産業分金一四九万五六六七円。)であつた。
(3) 原告は、昭和六三年一月三一日、グランド産業を任意退職し同時にニユーグランド産業の前記業務も辞めたが、これは、同人の関西方面に帰りたいとの希望によるものであり、当時、同方面における同人の前記技量を評価しての就職誘致は多く、再就職先の心配はなかつた。
このような事情から、同人には、同年一月中旬頃、前記日本遊戯機技術者協会会長の紹介で、大阪市東淀川区淡路四丁目所在ダイコク産業株式会社に再就職が内定していたところ、その就職条件は、業務内容・前記グランド産業における業務内容と同じ、給料・月額金一〇〇万円、同年三月一日までに入社というものであつた。
しかして、右両者間の右就職及びその条件は、同年二月一〇日、正式に書面で明確化された。
本件事故は、原告が右会社に再就職するまでの間に発生し、同人は、本件受傷に対する前記治療期間中無収入であった。
(4) 原告の本件受傷治療後における就労可能時期は、同人の前記症状固定時期と同じである。
(三) 右認定各事実を総合すると、原告に本件損害としての休業損害の存在を肯認すべきであるところ、その算定の基礎収入は、月額金一〇〇万円(日額金三万三三三三円。円未満四捨五入。以下同じ。)、同休業期間は一三四日と認めるのが相当である。
そこで、右認定説示に基づき、原告の右休業損害を算定すると、金四四六万六六二二円となる。
3万3333円×134=446万6622円
6 慰謝料 (請求 金二七八万円) 金一〇〇万円
原告の本件受傷内容、その治療経過等前記認定の本件全事実関係に基づくと、原告の本件慰謝料は、金一〇〇万円と認めるのが相当である。
7 原告の本件損害の合計額 金五五四万二三六七円
三 原告における既往症の存否
1 証拠(本件鑑定結果、弁論の全趣旨。)によれば、うすい整形外科の原告に対する治療経過において、同人の第四・第五頸椎間で軽度の動揺性が認められること、同動揺性は、本件事故当時同人の頸椎に既に何らかの異常があつた場合に認められるものであること、同人の同異常が同人の本件損害に及ぼした影響は、一〇パーセント相当と考えられることが認められる。
2(一) 右認定各事実に基づくと、原告には、本件事故当時、その頸椎に既往症が存在し、これが、同人の本件損害の発生に対し一〇パーセント相当の寄与をしていると認めるのが相当である。
(二) しかして、被害者に対する加害行為と被害者の罹患していた疾患がともに原因となつて損害が発生した場合に、加害者に損害の全部を賠償させることが、当該疾患の態様・程度等に照らして公平を失するときは、損害の公平な分担を図る損害賠償法の理念からして、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法七二二条二項を類推適用して、被害者の当該疾患を斟酌することができると解するのが相当である(最高裁平成四年六月二五日第一小法廷判決裁判所時報第一〇七七号六頁参照。)。
(三) そこで、本件においても、右見地に則り、原告の前記認定にかかる本件損害合計金五五四万二三六七円の一〇パーセントを減額するのが相当である。
その後の原告の本件損害は、金四九八万八一三〇円となる。
四 過失相殺の成否
1 本件事故の発生、原告車・被告車の同事故当時における対面信号機の表示が、原告車関係が黄色点滅、被告車関係が赤色点滅であったことは、当事者間に争いがない。
2 証拠(甲一一、原告本人の一部、弁論の全趣旨。)によれば、次の各事実が認められる。
(一) 本件事故現場である本件交差点は、南北道路〔車道幅員約一四・六メートル。幅員約一・六メートルの中央分離帯で東西二車道に区分され、各車道は、さらに二車線(東側車道の各車線の幅員は、東から約三・四メートル・約三メートル、西側車道の各車線の幅員は、東から約三・二メートル・約三・四メートル。)に区分されている。〕と東西道路〔車道幅員約九メートル。中央線により南北二車線(各車線の幅員は、いずれも約四・五メートル。)に区分されている。〕とが交差する十字型交差点である。
右交差点は、市街地に位置し、その構成各道路は、いずれも平坦な直線状のアスフアルト舗装路であり、同交差点の四方入口付近には、横断歩道が設置されており、また、同交差点の四方隅地帯にそれぞれ車両用信号機が設置されていて、本件事故当時作動していた。そして、同交差点付近の本件事故当時における交通は、閑散としていた。
右交差点における見通しは、南北・東西いずれの道路においても、前方へは良好であるが、同南北道路を南進する車両の運転者にとつて右前方(なお、左右は、進行車両の運転席に着席して前方を見た姿勢を基準とする。以下同じ。)への、同東西道路を東進する車両の運転者にとつて左前方への、各見通しは、同交差点の北西角が駐車場であるため、やや不良である。
右交差点付近の交通規制は、最高速度時速四〇キロメートルである。
なお、本件事故当時の天候は晴、路面は乾燥していた。
(二)(1) 被告は、本件事故直前、被告車を時速約六〇キロメートルの速度でライトを近目にして運転し本件交差点の東西道路北側車線上を西方から東方へ向け進行して、同交差点西側入口付近に至り、そのまま同交差点内を直進しようとした。
同人は、その際、同場所付近で、自車対面信号機の表示が赤色点滅であるのを認め自車の左右前方を見た時、自車左前方に進来する原告車のライトを認めた。しかし、同人は、同ライトが遠方に見えたため自車の方が先に同交差点内を通過できると軽信し、従前の速度のまま所定の場所で一時停止せずに同交差点内に進入し、同交差点内中心付近に至つた時、初めて原告車が自車左方約九・七メートルの地点付近に進来したのを認めたが、急ブレーキを掛けたりハンドルを切つたりする間もなく、同中心付近から約五・八メートル東進した地点付近において被告車の左側面部に原告車の前部が衝突して、本件事故が発生した。
(2) 原告は、本件事故直前、原告車を時速約五〇キロメートルの速度でライトを近目にして運転し本件交差点の南北道路東側車道東側車線上を北方から南方に向け進行して、同交差点北側入口付近に至り、そのまま同交差点内を直進しようとした。
同人は、その際、自車対面信号機の表示が黄色点滅であるのを認め同交差点北側入口から北方約四三メートルの地点付近で自車左右前方を見たところ、進来する車両を認めなかつた。そこで、同人は、同交差点東西道路の車両用信号機の表示が赤色点滅でもあり同道路を進行する車両は一時停止するであろうから自車前方に進来する車両はないものと軽信し、自車前方の安全を十分確認することなく、しかも従前の速度のまま同交差点に進入し、同交差点北側入口に設置された横断歩道を通過しようとした時、初めて被告車が自車右前方約一六メートルの地点付近に進来したのを認め驚いて原告車に急ブレーキを掛けたが間に合わず、約八・六メートル南進した地点付近において両車両が衝突して、本件事故が発生した。
3(一) 右認定事実を総合すると、原告には、本件事故当時、徐行義務・前方注視義務があり、被告には、同じく一時停止義務・前方注視義務があつたというべきところ、本件事故は、同人らにおける同義務違反の各過失によつて惹起された、即ち、同事故の発生には、原告の同過失も寄与していると認めるのが相当である。
したがつて、原告の右過失は、同人の本件損害額の算定に当たり斟酌するのが相当である。
しかして、右斟酌する原告の過失割合は、前記認定の全事実関係に基づき、全体に対し一〇パーセントと認めるのが相当である。
(二) ところで、当事者間に争いがない原告の四日市中央病院における治療費合計金一一万五一四〇円が本訴請求外に存在するところ、紛争の一回的解決の観点から、同治療費金一一万五一四〇円も前記認定にかかる原告の本件損害金四九八万八一三〇円に加算してこれを本件総損害金五一〇万三二七〇円とし、同総損害額を前記過失割合で所謂過失相殺するのが相当である。
しかして、同過失相殺後の原告が被告に請求し得る本件損害は、金四五九万二九四三円となる。
五 損害の填補
原告が本件事故後自賠責保険金金一七〇万円、四日市中央病院治療費合計金一一万五一四〇円合計金一八一万五一四〇円の支払いを受けたことは、当事者間に争いがない。
そこで、右支払金合計金一八一万五一四〇円は、本件損害の填補として、原告の前記損害金四五九万二九四三円から、これを控除すべきである。
右控除後の原告の本件損害は、金二七七万七八〇三円となる。
六 弁護士費用 (請求 金三〇〇万円) 金二八万円
前記認定の本件全事実関係に基づくと、本件損害としての弁護士費用は、金二八万円と認める。
第四結論
以上の全認定説示を総合して、原告は、被告に対し、本件損害合計金三〇五万七八〇三円及び内金二七七万七八〇三円(弁護士費用金二八万円を除く。この点は、原告自身の主張に基づく。)に対する本件事故日であることが当事者間に争いのない昭和六三年二月一三日から、内金二八万円(弁護士費用)に対する本件事故後であり、かつ本訴状送達の日であること(この点も、原告自身の主張に基づく。)が本件記録から明らかな平成元年一月一九日から、いずれも支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める権利を有するというべきである。
よつて、原告の本訴請求は、右認定の限度で理由があるから、その範囲内でこれを認容し、その余は理由ないから、これを棄却する。
(裁判官 鳥飼英助)
事故目録
一 日時 昭和六三年二月一三日午前五時四五分頃
二 場所 三重県四日市市新正三丁目一番一号先路上(信号機の設置された交差点内)
三 加害(被告)車 被告運転の普通乗用自動車
四 被害(原告)車 原告運転の普通乗用自動車
五 事故の態様 原告車が、本件交差点の南北道路を北方から南方に向け進行し、同交差点内を直進しようとして同交差点内に進入したところ、被告車が、同交差点の東西道路を西方から東方へ向け同交差点内に直進進入して来たため、両車両が、同交差点内で衝突した。